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2020.06.16

対談ブログ~ファミリークリニックのコンセプト『在宅の総合病院』とは何か? 医師 高橋 × 理事長 伊谷野~

こんにちは、事務局長の清水です。

2020年7月1日時点で当院の常勤医師数は、11名になります。
本日は常勤医師数が10名を超えて組織が大きくなってきたこのタイミングで、改めて当院の方針を掘り下げていく機会にしたいと思います。

今回、当法人ファミリークリニック( 蒲田 品川 多摩川 )が掲げている『在宅の総合病院を目指します』というコンセプトについて、理事長の伊谷野先生、在宅リハビリテーションセンター長で医局長でもある高橋先生と対談形式で進めさせていただきます。

患者さんはどんな状態であれば”安心”を感じることができるのか?

ーーーーまずは当法人の目指す『在宅の総合病院』とはどのような状態を指しますか?また合わせて、在宅の総合病院ではない状態だったとしたら何を指しますか?

伊谷野:
たしかに自分たちの考えを言葉にしていくことは大事ですね!
それではまず私から。

大枠として『患者さんの視点』と『医療従事者の視点』のそれぞれの視点から在宅の総合病院を考えるという流れで進めていきます。

まずは『患者さん視点』の在宅の総合病院から考えます。

患者さんはどんな状態であれば”安心”を感じることができるのかーーー私は”患者さんご自身が困ったことをトータルで診てくれている”と感じた時に”安心”に結びついているのではないかと思います。

そうなると、例えば医師や医療機関が「認知症は専門ではないので対応できません。緩和ケアは対応しません。専門外は対応しません。」という状態であれば、掲げている在宅の総合病院というコンセプトとは外れます。

患者さんは「困っている今の状態を何とかしてほしい」ということがご要望になりますので、どんな疾患であっても対応ができる組織、それが在宅の総合病院ではないでしょうか。

高橋:
伊谷野先生のお話は僕も共感しています。
地域医療においても在宅医療においても総合診療は『お薬箱』のようなものだと思っているんです。

『在宅医療はお薬箱』?主治医の役割とは?

ーーーー『在宅医療はお薬箱』?面白いフレーズですね。少し補足をお願いいたします。

高橋:
僕はへき地医療や地域医療をベースにしている大学の出身です。そこからの経験でかかりつけの主治医はお薬箱のようなものだという考えに至りました。

患者さんはいくつかの症状を抱えていることがあります。例えば、お腹が痛い、胸が痛い、目が痛い、皮膚に腫れ物があるといった状況だとします。

この場合、内科、眼科、皮膚科の3つの診療科を受診をすることが一般的ですよね。医療機関側で考えると1人の患者さんに3人の医師がつくことになります。

病院では、各診療科で検査をして、診断をして、処方や処置をします。ただ、在宅医療の領域で言えば、その人の今の状況に合わせて、必要な対応を最低限でも良いからその時、その場ですることもとても大事だと思います。

お薬箱という役割のかかりつけ主治医であれば「今の状態からとりあえず何とか見通しを立たせることができる」という状況を目指したいです。

患者さんの「目が痛い」という投げかけには、診療科に関係なく、最低限やることは目を診て、わからなければ写真を撮って、情報収集をした上で地域の眼科の先生にお願いするという流れでお応えしたいと思っています。

伊谷野:
そうですね。眼科の検査はできないですけど、点眼薬を処方することはできますからね。「専門外でわかりません、知りません」ではなく、まずは患者さんの困っていることに向きあう姿勢が大切ですよね。

高橋:
はい、そうですね。

僕がこういうときの対応は「仲の良い親戚のおっちゃん、おばちゃんからの相談だったらどうするか?」と考えるようにしています。”仲の良い友達”と置き換えても良いです。

専門外のことももちろんありますが、仲の良い親戚のおっちゃん、おばちゃんが病気や症状について相談してきたときに「知りません!」とバッサリと断る対応はしないです。

まずは聴いて、見て、できることは対応するし、できないことは適切な役割へのアクセス方法を助言します。

仲の良い親戚のおっちゃんやおばちゃんからの相談への対応と同じように在宅医療の患者さんに接することを考えていますね。

専門に関わらず「あの先生に聞けば、ファミクリに聞けば、何かしてくれるかもしれない」という”安心”を提供する

ーーーーなるほど!ありがとうございます。
それではもうひとつ話が出ていた『医療従事者視点』の在宅の総合病院の話に移りましょう。

伊谷野:
高橋先生の話を聞きながら、私なりの考えをまとめていました。

改めて言えることは、従来の総合病院の考えを何でもかんでも在宅医療に反映するわけではないということですね。

総合病院は各診療科や専門領域がハッキリしています。それは高度な医療を提供する上では必要なことです。

一方で、あえてデメリットを考えるとすると診療科が縦割り過ぎてしまい、それが際立ってしまうと診療科同士の横のつながりが希薄になってしまうことがあるかもしれません。そうなると1人の患者さんに何人もの医師が対応することになるわけです。

当法人の掲げる『在宅の総合病院』は、専門を追求すること自体は良いことですが、その専門を突き抜け、その専門しかやらない、専門外のことはすぐ他に回すという意味ではありません。

ご自宅で療養生活を送りたいという患者さんは、最高の設備が整っている病院での最高の医療を求めているというわけではなく、苦しい状況を良くしてほしいと求めています。

「病気や健康上の問題に対して一か所で全て対応してくれて解決できる」ことが”安心”につながると思っているので、それに応える医師は『1人で総合病院の状態を作るという姿勢』が大事です。要はまずは何でも診る、患者さんに向き合い、自分でできることを考えるということです。

ーーーー1人で総合病院の状態を作るって、、結構難易度が高いように感じてしまったのですが、可能なのでしょうか?

伊谷野:
1人で総合病院の状態を作るという『姿勢』ですね。実際、1人医師で365日24時間なんでも対応するということだとすぐに限界がきます。

私は2005年の開業時にその状態でしたが、体の負担が半端ではないです。長くは続かないですね。長くは続かないということは、結局のところ地域に迷惑をかけてしまうことにもつながりかねません。そこに気づけた時に、私はチームで対応する方針に切り替えていきました。

高橋:
そうですね。
地方やへき地で言えると思うのですが「あの先生に聞けば、何かしてくれるかもしれない」という地域の総合病院や診療所はあると思います。それは地域の患者さんにとっては安心感がありますよね。

ただ、一方では1人医師の限界というのはありますね。それは良くも悪くも、人数が少ない状態で提供している医療は、その先生の医療水準が地域の医療水準になるという側面があるということです。

もちろん高い医療水準であれば良いのですが、それを持続させるのは非常に難しいことだと思います。

当院は複数の医師がいて診療科も多岐にわたるので、ある意味セカンドオピニオン的な役割も担えていますよね。その点は1人医師では難しく、複数名体制ならではのメリットがあることだと言えます。

伊谷野:
複数名体制になったときに気をつけなければいけないのは、診療体制の縦割り化です。当院では診療体制の縦割り化はなくしていかなければいけない。

高橋先生の「どんな状況においてもこのお薬箱(主治医対応)があればなんとか見通しを立たせることができる」という表現がしっくりきますよね。複数診療科の広い守備範囲が必要になってきます。

高橋:
医師も人間で、人間には当然能力の限界があります。まだ経験できていないこともたくさんあるわけなので、わからないときは情報収集に徹して、他の先生の視点も入れることで解消できることがあります。

その時に次回訪問する別の医師が患者さんに対して「先日、主治医の先生から聞きましたけど、、」と話を続けていくことでスムーズに連携ができてくると思います。

目指すのは『在宅の”層”合病院』?ファミクリはミルフィーユ?

ーーーーありがとうございます。高橋先生、在宅医療はお薬箱というようなフレーズもぜひ考えてください。笑

高橋:
うーん。
僕のイメージだと『在宅の”層”合病院』でしょうか。

医師はスペシャリストの専門職で、キャリア形成上、専門領域追求型の I 型人材と表現されることがあります。私は在宅医療で求められるキャリア形成は、ひとつの専門分野も精通した上で、幅広い領域も浅く広く対応できる T 型人材ではないかと思います。広い知識と視野を持ちながら、自分の得意領域も追求している先生は活躍していますね。

I 型人材の先生が増えていくと、縦には伸びますが、横を見ると所々に穴が出てきてしまいます。得意不得意が目立つ組織になっていくでしょう。一方で T 型人材の先生方が増えていくと、広い領域をカバーしながら何層にも積み上がっていきますので、穴がなくなり、かつ縦にも伸びていくわけです。

断らない在宅医療を掲げている当院としては、このような層の厚みがある”層”合病院の状態がイメージに近いのではないでしょうか?
僕は甘いものが好きなのですが、お菓子で例えるなら、何層にも重ねたミルフィーユでしょうか。笑

伊谷野:
在宅の”層”合病院、ファミクリはミルフィーユ、いいですね~!
地層が重なるように層に厚みができれば隙間もなくなりますからね。

「緩和は得意でも、認知症は診れない」「内科は診れても、婦人科は診れない」「腰痛は診れても、腹痛は診れない」など、1人ではどうしても得意不得意がでてきます。

そこをカバーできるのが在宅の総合病院の目指すところですね。現政策において医師のキャリア形成上、不得意なことやできないことはあるので、それ自体は当然です。

そこから思考停止に陥らず、まずは向き合い、どうすれば良いかを考え、できないことは適宜他の先生に相談し連携ですね。

医師個人にとっても視野や対応の幅が広がる良い機会だと思いますので、必ずプラスになるでしょう。

実際、他の先生のカルテやカンファレンスを通じて、学べることは多いですね。
私自身も内科外科系のアプローチと精神科のアプローチの違いがわかったときは勉強になりました。

高橋:
その通りですね。医師が他の人に聞くことは全然恥ずかしくないと思います。

私は一緒に同行している診療助手(メディカルアシスタント)から助言を得ることもあります。診療助手は患者さん側の視点で見てくれているサポーターとしての役割もあり、とても助かっていますね。

ーーーー当院の診療助手についてですね。他の職種のこともぜひ掘り下げていきたいですね。本日はお時間になってしまったので、次回以降のテーマとしてまた開催させてください。次回以降のテーマも決まったところで、最後に伊谷野先生締めの言葉を!

伊谷野:
そうですね。
当院は患者さんの視点で「病気・健康上の問題に対して一か所で全て対応してくれて解決できる」個人が集まって構成された『在宅の総合病院』を目指しています。ただ、まだまだ模索中です。

時間や医療資源は限りのあるものなので、すべてを完璧にできるわけでもありません。それでも患者さんの困っていることに向き合い、それに対して時間や医療資源が限られた中で、個人個人がその時のベストを尽くすという姿勢は大事にしていきたいと思います。

患者さんや地域の関係者からのフィードバックを改善に活かしていきながら、より良い組織を目指していきます。

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対談ブログは以上になります。

医療従事者の方や地域関係者の方の訪問診療の見学も行っておりますので、訪問診療にご興味のある方はご連絡ください。

医療法人社団 双愛会
事務局長 清水 雄司
y.shimizu@twinheartmedical.com

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