本日は在宅救急センターに在籍している救急救命士の樫村さんと理事長の伊谷野先生で対談を進めていきます。
樫村さんは消防署勤務で救急隊として従事したあと、当院に入職しています。
・自分達の仕事は患者さんの表面的な問題に絆創膏を貼っているだけなのではないか?
・患者さんが根本的に根源的に抱えている心身の不安に対して、問題を解決していないのではないか?
・救急救命士としての役割を果たしてはいるが、イチ医療従事者として根本的な解決ができているのか?
このように考えたことのある救急救命士さんがいらっしゃれば、ぜひご一読ください(^^)
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ーーーーまずはファミリークリニックの在宅救急センターの役割から教えてください
樫村:
地域の救急医療システムの負担を減らすことが在宅救急センターの役割だと思っています。救急車搬送の約6割は慢性疾患を持つ高齢者で、在宅医療機関が診察する患者さんでもあります。在宅医療クリニックが24時間往診するシステムを確立することで、患者さんに安心を与え、地域に安心を広めることが可能です。
伊谷野:
地域の救急医療システムの負担を減らすことは非常に大事ですね。
もし在宅救急センターが24時間往診システムを行わなければ…
・重症度に限らず連絡を受けた救急隊員は行かざるを得ない、行ったら運ばざるを得ない状況になる
・件数が増えると救急外来が逼迫する
という本来行うべき救急医療を担えないことにつながります。
医療機関で救急は一次から三次救急まで区分されています。
・一次救急:軽症者
・二次救急:入院加療や手術を必要とする患者
・三次救急:重篤者や多発外傷者
在宅救急センターは、1.5次救急あたりで機能を果たせると良いですね。在宅医の普段診療と緊急往診を適切に行うことで、地域の救急医療システムの負担を減らせることができると思います。
樫村:
そうですね。ファミクリにきて、改めて考えると1.5次救急を担えていることは介在価値が大きいです。また、普段見ている先生方が往診に行くという点も安心につながっています。もちろん病院の救急ほど物品が揃っていない状況にはなりますが、それでもドクターが往診することで患者さんやご家族がとても安心されているシーンは日常の光景です。
いつも診察してくれている『顔が見える』『自分のことをわかってくれる』医師のチームが24時間体制で来てくれることは、患者さんとご家族に安心を提供しています。また、救急隊や救急病院(救急医療システム)の負担を減らしていくことで、本来あるべき医療のカタチを示しているのかもしれません。
ーーーー救急隊以外のキャリアを考えたきっかけは何ですか?
樫村:
救急隊として仕事をしていた時、患者さんの約6割が高齢者で実際は入院を必要としない軽症患者でした。
かかりつけ病院や救急当番病院に連絡をしても受け入れてもらえず、病院が決まらないため、ずっと滞在していることがありました。
病院へ搬送した後も大変です。簡単な検査を受けて、また長い時間をかけて帰宅する患者さんの姿を眼にします。
患者さんの多くは、医療資源が乏しく、必要な医療や介護に十分にアクセスできていない環境で生活をしているのです。
・自分達の仕事は患者さんの表面的な問題に絆創膏を貼っているだけなのではないか?
・患者さんが根本的に根源的に抱えている心身の不安に対して、問題を解決していないのではないか?
・救急救命士としての役割を果たしてはいるが、イチ医療従事者として根本的な解決ができているのか?
長年ふとした時に考えるようになり、自分のキャリアを活かせる環境はないか?と調べることにしました。
ーーーー転職先に当院は選んだ理由は何ですか?
樫村:
在宅医療自体はもちろんは知ってはいましたが、中身までは詳しく知らないという状態でした。折角の機会だということもあり、職場見学の機会をいただきました。
その時にいくつかの印象が残っています。
・オフィスの雰囲気がオープンだった
・若い人が活躍している印象を持った
・訪問診療の同行で衝撃が走った
もっとも大きな転職理由はやはり訪問診療の同行になるかなと思います。
病院という環境で医療が提供されること自体に慣れきっていたため、初めて往診に同行したとき、医師が往診で患者さんのご自宅で診察をしている姿を実際に見ると驚くことばかりでした。患者さんのご自宅の中で、本当に医療が提供されている…。
このときに医療は病院で行うという先入観が強くあった自分に気づきました。コペルニクス的転換と言っても過言ではないかもしれません。笑
『病院は行くものだ』その先入観に縛られ、他の選択肢を知らない状態、まだまだ認知度が低い状態ではないかと思いました。
私が仕事を始めたときを思い返すと、ごくわずかではあるものの地域のお医者さんが往診バックを持って、深夜でも早朝でも、患者さんのご自宅に伺い往診していました。またそこでお看取りをする姿もみていました。
患者さんのご自宅に医師が行く、というのは医師本来の姿でもあり、医療の原点だと感じたのです。ご自宅に行き医療を提供するという点では、救急隊が担っているプレホスピタルケアとも同質であると感じました。
ここまで考えて、自分でも携わってみたいと実際にファミクリに入職を決意しました。
ーーーー在宅医療で救急救命士ができることを考えてみると、それは何でしょうか?
樫村:
1つ目は、『自宅という特殊な環境で医療を提供する』これは救急救命士が持つ知識や経験が十分に活かされます。患者さんのご自宅は病院と異なり環境が一定ではないので、現場に応じた診察や検査方法のサポートを考えなくてはいけません。
『薬剤、物品が少ない。10人いれば10人背景が違う。病院ではない。』そのような状況下で、最適なサポートを考え実行していきます。
2つ目は、最低限の医療器材と薬品を携行して医師の診療をサポートするためには、病院外で医療を展開するトレーニングを受けた救急救命士の専門性が必要とされることがあります。
3つ目は、自宅から病院へ搬送しなくてはいけない時にも地域の救急医療のリソースを把握して、救急隊や病院との橋渡しを担うことが必要で、救急医療全体に対する深い理解が必要とされます。
在宅医療は様々な、職種、組織が介入しないと成り立たない医療です。そこで緊急往診の時に医師が医療を提供できるようにするには救急救命士の力は役に立ちます。
『置かれた環境下で選択肢を出し、決断する』というトレーニングを積み、救急隊時代から培ったスキルは、十分活かされていると思います。
伊谷野:
救急救命士さん全般に言えますが、リズムが良いですね。在宅医は患者さんやご家族のコミュニケーションの時間が最も大事で、そこに一番丁寧に時間を割きたいです。極端に言えば、それ以外の時間はすべて合理的にいきたい。その点、救急救命士さんはテンポよくサポートしてくれるのでやりやすいです。
樫村:
それは先読みする力が発揮できているのかもしれませんね。先手先手に考えて、救急医療のシミュレーションやトレーニングを積んできているので、自然とできているのかもしれません。伊谷野先生や他の先生方もそれぞれリズムがあるので、実は動きやリズムは先生それぞれによって全然違うんですよ。
伊谷野:
なるほど。救急救命士さんは色々な診療科の先生と同行できるのも面白い点ですね。リズムを教えるというのはなかなか難しいことなので、先読みしてくれる力に助かっています。
ーーーー病院と在宅医療で違いは感じますか?
樫村:
あえてポイントを絞ると時間軸の違いはありますね。救急隊のときは、分単位での決断やアクションが必要です。どんなに長くても1時間くらいでしょうか。
一方で在宅医療は、週単位、月単位、年単位のお付き合いになります。その中でお看取りの場で立ち会わせていただくこともありますが、自分でも驚くほど喪失感を得ていることがあります。自分の家族が亡くなったような感情です。救急隊のときにはない感情なので、時間軸の違いからきているのではないかと思います。
伊谷野:
在宅医療は生活の時間の流れですからね。生活に密着しているからこそ、違う感情を得られたのだと思います。
ーーーー在宅医療における救急センターの今後の課題
樫村:
在宅医療でも「できることと、できないことがあり」どうしても状態が安定しないときには救急病院への搬送が必要になるときがあります。また、いわゆる患者さんのバックベッドとしての病院がしっかり確立されている患者さんと、そうではない患者さんがいらっしゃいます。
在宅医療と救急医療は、地続きであり切り離せないものです。普段は安定している時には、在宅医療で診ていて、状態が悪化した時には一時的に救急病院で診察していただく。そしてまた安定したら自宅に戻るというようなシステムを地域で確立することが今後の課題ではないでしょうか?
『在宅医療クリニック側も安定したら自宅に戻すことがいつでも可能』と救急病院とのコンセンサスが確立できれば救急病院も安心して患者さんを受け入れるのではないか、と思います。
伊谷野:
とても大事な視点ですね。開業時から『断らない在宅医療』をしようと掲げているのも、地域との信頼関係の構築に欠かせないことだからです。必要のない入院をなくすため、必要のない救急をなくすためにも、在宅医療クリニックでできることはベストを尽くしていきたいですね。
ーーーー働いてみて、ファミリークリニックの良いところはありましたか?
樫村:
1つ目は、IT化が進み、クラウドで仕事を処理できるところです。以前はハンコ文化だったので、書類の文字が違うだけでたらい回しになることも日常でした。笑
合理的でスピードを比較すると桁違いです。
2つ目は、合理性を求めているところから紐付いて、オンオフがしっかりしているところですね。残業は控えめに考えても、前職の半分以下だと思います。メリハリができました。
3つ目は、職種、年齢が幅広いことで、フラットな文化な点です。ただ、それが良いことだけではないと、ここで一緒に働いてから感じています。フラットであるがゆえに、パフォーマンスが必要という側面もあります。ある意味、上下関係の文化の縦社会に助けられていたこともあるんだな、と感じることができます。
ーーーー最後にメッセージをお願いいたします。
樫村:
看護師さんから『病院は医師が主役』『在宅医療は患者さんと家族が主役』と教えられました。本当にそのとおりだと思います。
患者さんとご家族の安心と安全を支えるための役割として、医師・看護師を含めて多様な組織と職種があるのだと思います。
その中で、緊急往診は在宅医療の根源を支える仕事であり、かつ社会全体を支える救急医療の一部とも言えます。ぜひ、救急救命士の知識や経験を活かしてもらいたいと思います。